CLIENT INTERVIEW
クライアントインタビュー
対話を重ねて実現した、暮らす人を想う設計
中澤:建設委員会ではまず介護のソフト面を中心に2年に渡り毎週議論しましたが、非常に良い経験をさせていただいたと思っています。その中でも皆様がスウェーデン研修に行かれ、その経験を元に議論されていたのが印象に残っています。
中村理事長:先遣部隊が研修から持ち帰ってきた、スタッフの介護に対する考え方が全く真逆でした。介護課長は「あれは手抜きだ」と言う一方、看護課長は「あれはすばらしい」と。そのギャップがなぜ生まれるのかなと思っていましたが、私自身現地に行ってみると「特別住宅」と言われる施設には穏やかな雰囲気が流れていてスタッフもそこで住む方もまるで家族のようでした。
木村氏:私はちょっと反発心もありながら研修に行ったのを覚えています。「スウェーデンの介護はスウェーデンの国だからできることで日本じゃできないよ」って――。でも数日過ごしただけで、その考えが自分の中で変わりました。あの研修が会議に生かされたと思います。
長尾氏:私は建設委員会では建物の話だけがメインなのかなと思っていたのですが、それだけではなく介護に対する思いだとかすごく勉強になりました。楠山設計の中澤さんは南面に関わっている時間が長いので、南面でやろうとしている介護をとても深く理解されていると感じました。
中村理事長:会議では、建築のことはさておき介護においてのトライアンドエラーを実行しました。挑戦してこれは良かった、うまくいかなかったという話をしながら「私たちのやりたい介護とはこういうものなんだ」ということをまず具体的に考えていきました。それを中澤部長が引き出してくれて、建築という形になってきたんじゃないかなと思います。
木村氏:回を重ねるごとに議論が深くなっていきましたね。利用者さんやスタッフの使い勝手にスウェーデンの考えを取り入れたりとか。みんなで頭を悩ませるうち最終的に目指すものに毎回ちょっとずつ近づいていって、建物が完成しました。
中澤:建物の使い心地はいかがでしょうか。
村田氏:私は何かとても温かさを感じています。もともと前理事長のコンセプトが「家庭的な」というか「第2の我が家」ということもあり、そういう部分は十分入っているかなと思います。
木村氏:施設っぽさがなくて、本当に家みたいです。家族のような温かさや距離の近さだったり、自由さというかアットホームな感じはいつも感じています。
菊地氏:一番感じるのがとても開放的だなというところですね。今までの施設だと窓も小さかったし、ベランダの柵も格子状のものが多くてどうしても施設に入っているような印象を与えてしまうところもありました。結果、今までよりも本当に外に出る機会がかなり多くなりました。
中村理事長:部屋にこもらず、外に出てほしいという話が会議の中で出てましたね。住む人が「ハッピーになる」ということはとても大事なことですし、加えてそこで働くスタッフもハッピーである必要があります。
中澤:以前と比べて変わったことは何でしょうか。
中村理事長:既存棟ではご飯をあまり食べられなかった利用者が、新しい棟に移動されて目の前で食事を作って提供するようになったら食べるようになったということもあります。そういった温かい雰囲気ができて良かったなと思います。
村田氏:スタッフが隣で食べるんです。そしたら、ご自分でちゃんと箸を持って普通に食べるようになりました。一生懸命介助しても食べなくて遊んでしまっていた方がです。「今まで一生懸命介助していたのは何だったんだろう」とすごく思いますね(笑)。
中澤:ユニット型と言っていても形だけユニット型で、やっていることは従来と変わらないケースが多い気がしますが、本当にこちらはソフトをありきで議論を尽くしたことが非常にすばらしいと思います。
中村理事長:そうですね。名ばかりのユニットケアではなく、建物ができる前の図面の段階から部屋一つとってもいろいろ考えていただいたというのが大きいですね。
中澤:正直お打合せが始まった頃、打合せの進め方が普通の法人と違うなと感じ、本当に私で大丈夫かなと思いました。これは大変な設計になるのではないかと(笑)。
村田氏:設計事務所の仕事は図面を書くことだと思っていましたが、私たちに近寄って寄り添っていただいたというのが嬉しかったです。前理事長が本当にいろいろ奇抜な意見を出したこともありましたが、すごくそれに寄り添っていただいた。「ダメです」ということは絶対言われなかった。いつも「うーん、考えてみます」と言って持ち帰ってくださり進めていっていただきましたよね。
中澤:前理事長の「常識にとらわれたらいけない」という言葉は非常に印象的で、療養室の広さも最終的に施設基準の2倍以上、敷地は当初計画から3倍に広がりました。
中村理事長:中澤部長の飾らない人柄のおかげで変に肩ひじ張らなくて相談できたのが良かったです。本当に完成前からすごく良い施設ができるだろうとわくわくしましたし、できてみて「これは日本の介護を変える施設になるだろうな」とまたわくわくしています。「介護の本質ってなんだろう、自分たちがどういう介護を受けたいだろう」ということを一緒に悩み、苦しみながら育てて頂いたのはすごくありがたいなと思います。大満足です。中澤部長もそうですし、楠山設計の方々は人として信頼できるというところが大きいかなと思います。
中澤:やはり問われたことにはお答えする、お客様を不安にさせないという気持ちを大切にしているのですけれども、いろいろご相談を受けましたが、なかなか厳しい課題が多かったです(笑)。
中村理事長:建設委員会のみんなに熱い思いを語ってほしいなと思うんですが。
菊地氏:そうですね。新しい棟に移り、実際に運用してみてまだまだうまくいかない部分もあるんですが、やはり建物の中で暮らす人がいかに暮らしやすいか議論を重ね、生活する人のことを考えた設計で生まれた建物ですから、きちんと建物に込められた思いを実現させ、ここから「介護のイメージが変わる介護」というのを発信できていければ良いかなと思っています。
木村氏:介護をしていて時々迷ったり、どうしていこうと思った時に、そういう思いが道しるべとして建物の中に入っている。こういう思いで作ったんだから、今考えているものは違う、こういう風にちゃんとしていかなきゃいけないという自分自身を導いてくれる建物になっていると思います。建設でいろいろ話して建物に込めた思いを本当にハードありきじゃなくて、ソフトがハードに繋がっているようなケアをしていきたいと思います。
村田氏:実は私も母が認知症の状況です。母が笑っている時というのはすごく父も良い顔をしているし、兄や甥っ子たちも良い顔をしている。だから住む人には笑顔でいてもらいたい。同時にスタッフも笑顔でいてもらいたい。そういう施設になれたらなって思います。本当にソフトもハードもそういう笑顔を作れるように生活ができる。そのようになっていければ良いかなって。笑顔がどんなに大事かということを気付かせてくれました。
中村理事長:建設委員会では当初、「ゆったりした施設を作ろう」で始まった。では「ゆったり」とは何なのか。そこからどういう施設が良いとか、あるいは自己決定権って何だろう、尊厳って何だろうとか、ユニットケアの本質は何か。そういった本質を見極めて作り上げてきましたよね。
その先に住む人が笑顔で過ごしたり、スタッフも介護を通して成長できる。これは私も天職だと思うんですけれども、仕事を通して成長できるというのは幸せなことです。
日々トライアンドエラーをして過ごせるというのは幸せなことで、そういう土台としてこういう立派な施設、立派なんだけれどもすごく温かい良い施設ができたと思っています。その大きな柱の一つが中澤部長であり、楠山設計であり、本当に感謝をしております。
中澤:こちらこそ本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。