まず最初に幼児教育の場として〝木に触れられる木造の園舎〟にしてほしいというご要望がありました。それを受けてエントランスホールには太い丸太を使いました。子供たちが抱きつけるようにという意図があります。こうした構造材を子供たちの目に見えるように使う、そしてフローリングのように手で触れられるところに使うということに配慮しました。フローリングは屋久島の地杉です。子供たちが物をこぼしたり、クレヨンでお絵かきしてしまうということを心配して、最初はメンテナンス性を優先し、ウレタン塗膜をしたような材質が良いという声も現場からあがりましたが、子供たちがつけた傷は歴史なんだという理事長の考えからこの材を採用していただけることになりました。
全体のカラーリングで一番特徴的なのは、外壁に黒という色を使ったことにあると思います。当初、黒すぎるんじゃないかという話もありましたが、外側は周辺の緑が映える黒で落ち着かせて、内部の壁は白を基調とし、かつ木と、子供たちの作品が色をつけるというところがコンセプトになっています。
子供たちがここで過ごす何年間かの中で印象に残り、その子たちの痕跡がどんどん傷になり、記憶として残って歴史を作っていくような園舎になったら良いなと思っております。
当初このプロジェクトは既存園舎を避けて園庭だった部分に新しく園舎を建てるというものでした。運営しながらのプロジェクトになるので、目指す竣工時期に間に合わせるためには、2階建てにし、遊戯室を2階に設ける必要がありました。そうなると、文科省の基準として耐火建築物にしなければいけないという制限が出てきてしまい、コストもアップします。検討した結果、1階建ての方がメリットがあったため、竣工時期を少し延ばし、もともと園舎があった一画に2期工事として遊戯室棟をつくることにしました。平屋になったのはそういう理由です。
設計のスタート時と完成してからと、実際に運営する先生方の意識が変わったなというのを一緒にやってきて大変感じております。御要望を伺いながら設計をしたのはもちろんですが、先生たちの保育の仕方といいますか、工夫しようという意気込みがすごくありまして、そういった観点でのアイデアをいただいたり、完成してからの使い方を見ていると「こういう使い方もあったんだ」と逆に勉強になったりもしました。結果としてすごくみんなに愛されている建物だなと思っております。